伊藤 遊 [ Yu Ito ]

32年休載知らず 風刺も人情も東京下町の派出所に勤務する不良警官「始末書の両さん」こと両津勘吉が曰々、大騒動を巻き起こすギャグマンガ。通称「こち亀」は、76年の連載開姶から一度も休載がない。
ギャグマンガが伝統的に持つ特性でもあるが、こち亀は風刺の側面を持っている。警察官である両さんが銃を乱射したりするギャグ表現は、反社会的な言動を繰り返す少年警察官の「がきデカ」(山上たつひこ)と同様、権力の姿がデフォルメされている。
一方で、下町における人と人との温かいつながりが随所に描かれ、読者をホロリとさせる。両さんが子どもだった昭和30年代を描いたストーリーは、ノスタルジーを誘ってか人気が高い。
風刺と人情話は伝統的な大衆物語に必要な要素だが、それだけではない。車、銃、おもちや、ゲームなど、作者の秋本治自身のマニアックな凝り性が作品をさらに面白くしている。それまでのギャグマンガと違い、車ひとつでも車種の違いまで描き分け、登場人物に解説させる。一種の情報マンガだ。
4年に1度しか起きてこない「日暮熟睡男」、過剰に武装した「ボルボ西郷」など、32年間で魅力的なサブキャラクターが増え続けた。登場するメカはIT化が進み、画風も変化した。だが、風刺、人情、マニア性の三位一体が続く限り、こち亀はこれからも人気作品であり続けるだろう。
(京都国際マンガミュージアム研究員 伊藤遊)

76年から「週刊少年ジャンプ」で連載。作者名は当初、山上たつひこをもじった「山止たつひこ」だった。映画やアニメにもなった。


朝日新聞記事(2008/07/08)より 無断転載禁止

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